ガイユの書

この人の本は読むの初めてですが,外れは無いだろうと思って買ってみる.

ガイユの書 薔薇の灰に祈りを (コバルト文庫)

ガイユの書 薔薇の灰に祈りを (コバルト文庫)

少女が剥かれて拷問されたり,ナイフで腹を割かれたりする話.
魔女狩りが流行っていたような世界観のファンタジー
顔見知りでも異端と分かれば平然と刃を向け石を投げ火に掛ける,ムラ人の冷酷さとか.あと自己同一性の問題.自分が何者であるかという認識のよりどころになるのは,だいたい,記憶とか,他者との関係ですが,このヒロインの場合前者は二年前から始まり,後者も物語冒頭で完全に破壊されて記憶の中にしかありません.しかしながら,彼女にとってのアイデンティティは彼女のマスターと過ごした二年前の記憶と,彼女自身に刻まれたマスターの名の刻印によって,強固に保たれており,記憶のない,マスターと契約する以前の自分が何者であったのか,作中では殆ど考えませんし,知ろうともしていません.記憶の断絶がそのまま自己認識の断絶となっている少女に,昔の面影を求めて追いかける青年の存在がどう影響するのかというのはつづきの話し.
やっぱり,ベテランの作品は安心して読める.情景描写も繊細だし,場面に合わせた文章のリズムの変化とか,すごくちゃんとしてる.
あと,拷問シーンとか,殺傷シーンですね.少女向けの割に結構攻めてたというか,あんまり露骨な表現が出来ない分,精神的にかなり追い込んでいるので,だいぶ面白いシーンになったと思います.