リリカル・ミステリー

この人の二作目

前作同様,女の子のダークサイドがぶつかり合います.
前作以上に面白かったです.ヒロイン以外の登場人物達の感情や思惑の叙述が多く,多角的な視点からストーリーが進みます.舞とか,春来の感情を想像しながら読み直しても一層楽しめるかと思います.あと物語の前半ヒロインがかなり鬱屈して壊れ掛かっているのがかなりツボです.
あと彩さんですね.最終的に彩さんの思惑通りに万事解決したような格好ですが,このキャラクターはいろいろ気になります.クライマックス三幕三章について琴乃は芝居だったと納得していますが,そこでの解決に至までの一年間の過程は,計画的と言うより結構感情的に進められたのだと感じます.と言うのは,春来に嫉妬して怪我をさせたり,「本物は目障り」という彼女の言葉は彼女の本音だと思うのです.それに彼女の計画自体も,春来を痛めつけて傷つける事が必要条件であったりする点が末恐ろしくもあります.また,最終的に自分が消えることを決めていたようですが,文化祭直後の段階で舞の提案に乗らず欺き,その後一年間引っ張ったのも,舞に対する怨みを感じさせる事柄です.結局誰よりも赤音を愛して,独占したかったのは彩ではないかと.赤音と彩の共存関係もとても興味深いです.彩は日向子の代わりでありながら同時に双子の姉であることを赤音から求められ,彩自身は日向子のイミテーションでありながらも赤音の一部であることを自覚しています.二人の関係は存在自体に位相差があるので自己愛とも他個愛ともつかない奇妙なものですが,保健室でのやりとりはとても象徴的です.赤音は自分を絶対に裏切らない親友を欲して,彩は(赤音の一部であるので)赤音以外に守りたい守るべきものがないしそれが存在理由であるのだから,二人は二人でいるだけで満ち足りる理想のパートナーです.しかしそれは彩が赤音の一部であるからこそ成し得る関係であり,赤音をますます孤立させることになります.そのような状況で,彩はの必要性と弊害をよく理解し,自分が必要で無くなるように一年がかりでお膳立てをするなど非常に献身的で,赤音への愛の深さを感じます.
さて,前作で作者は愛と憎しみについて語ってますが,赤音と彩を同一視しながらこれについて考えても面白いと思うし,舞や春来も想像をかき立てられるとても面白いキャラだと思います.
水上先生の絵も綺麗だし赤音はカアイイし,とても楽しめました.