ガイユの書

ガイユの書 薔薇の灰に恋がれ (コバルト文庫)

ガイユの書 薔薇の灰に恋がれ (コバルト文庫)

追われ狩られる魔女であるところのヒロイン.不死者(ドルー)とその魔術師(マスター)はこの世界では恐れられ忌まわれていますが,自身にはただ死なないと言う以外に特別な力はありません.そうとはしらず,人々はドルーを悪しきものとして討ち滅ぼそうとします.ポーシアは作中において,自分を含むドルーに特別な力がないことが人々に知れれば,自分はいっそう追われる事になると心配しています.冒頭に於いても,人は不死の秘薬を求める一方,よみがえった死者であるところのドルーを悪しきものとして戒めることの理不尽さを訴える,魔術師の遺書が示されます.名や素性で人物事を断じるのは人間の習性でありますが,差別主義の根本でもあります.いえ,差別を通り越して,ドルーは既に人間でないというのがこの世界の共通認識のようです.
ポーは自分の境遇に理不尽さを感じていますが,ポーに同情ばかりもしてられないのが本作.実際前巻でも今巻でもそれ以外でも,理由はともかくドルーによって滅ぼされた街がいくつかあるわけで,人々のドルーに対する見方も,あながち理不尽とは言い切れません.その点,ハルフェ・ルーは自身でも村一つ滅ぼしてる分覚めています.
おおよそポーシア=ナーディルであることはほぼ確定でしょうけど,マイがそのことを知ってからどうするかが見所ですね.ポーシアは記憶がないし,ルーもいるし,王子様だしマイの出方一つではどうにもならない事も多い.
全体的に良く構成されてて情景描写が凝ってるあたりちゃんとしてます.イメージはわきやすいですけど,読者の視点がちょっと登場人物から遠くなって感情移入しにくいかな.いやしなくて良いんですけど.はい,つづきが楽しみです.