ネコ

大変どうでもいいことです.
中学生のころ,わたくしが動物全般を嫌いだと言うようになったのは多分 父の影響で,それというのも父はよくふざけて「お前はオレと同じ冷血人間だ」とか訳の分からないことを言っていたので,そのころのわたくしは中二病的に,冷血→クール→かっこいいかも,と訳の分からない思考から「動物嫌い」という設定を自分に課してみたりしていたのでした.それはただの振る舞いであって,わたくしが実際に動物が嫌いかどうかと言うことは全く関係ないことだったのです.
さて,中二病とは全く関係ないところでわたくしは実際にネコがあまり好きじゃないです(ネコミミ少女,または少年は好きですが).というのは別にネコに怨みがあるわけではなく,生理的な嫌悪も発情期の雌ネコ以外には感じないのですし,早い話しネコにまつわるネガティヴな記憶がいくつかあり,だから 避けて通りたいと言う類の嫌い方をしているのです.
実際に幻聴を聞いた事のある人はどのぐらいな割合でいるものでしょうか.わたくしがその幻聴を幻聴と確信した理由の一つは,"聞こえたような気がした"のでなくて,"間違いなく聞いた.聞こえる"と感じたからで,まさに正常な聴覚の反応と区別がつかなかったからです.そしてその反応が正常で無いと断言しえたのは,そこに音の発生源を見いだすことができなかったからなのです.
実家はネコを飼っていまして,それは深夜のことで,わたくしはきっと受験勉強に疲れてもしかしたらノイローゼ気味だったのです.わたくしの部屋は二階だったのですが,窓の外からネコの鳴き声がしました.飼ってたネコと同じ声でした.おかしいと思って窓を開けるも当然声の主はおりません.暫くしてベットの下から同じ声がしたのです.そこにもネコはいません.押入の中にも引き出しの中にもネコは居ませんでした.それがわたくしの幻覚初体験でした.
なのでわたくしは,聴覚がネコの存在を感知した場合,まず自分の頭が正常であるかどうか反射的に自己診断を試みるような変な癖のようなものが身に付いています.そしてわたくしは,声のした先にネコが居なかったとしてももう狼狽えたりしなくなりました.そして今日も,頭の上からネコの鳴き声がしたときわたくしはネコの不在を確かめるべく頭上に目をやったのですが果たしてネコが居たのです.
今日わたくしはバイトで家庭教師にでてその帰り,住宅街を歩いているときのことでありました.ガレージのような廃屋のようなそんな感じの建物の屋根に子猫ではない野良猫が身を乗り出し,わたくしに鳴きかけていたのです.直感で,降りられなくなったのだと理解しました.よじ登って助けてやってもよかったのですが,よかったのですが.....ちょうどネコがいる建物のネコが居る場所のその下,建物の壁,わたくしの目の高さに張り紙がありました.

ネコを虐待する人が出現しました.この付近でネコにエサを与えると,ネコが殺される危険があります!
大田区ボランティア

張り紙にこれ以外の文字はありません.ショッキングな内容でした.黒い文字で"虐待"と"殺"の字が赤で強調してありました.もちろんわたくしはこの張り紙の内容をマトモに信用するほどの純真さは地元に置いてきてしまったので,いろいろな可能性を考えたのですが,それはあまり関係ないことかもしれないかもしれませんが,しかしわたくしは躊躇ったのです.それは触らぬ神に祟り無しという態度です.ネコの向こうに,(存在するかもしれない)ネコを虐待するという人にも,この張り紙を貼った人にも,わたくしは関わりたく無いというか干渉したくもなかったのです.そんなわけの分からない人とはネコを仲介しても無関係でいたかったのです.
屋根の上のネコはいつか覚悟を決めて飛び降りるでしょう.多少足を痛めても,多分大丈夫でしょう.でなきゃ野良なんて生きて行けないでしょうから.
結局わたしはどうしたらいいのか分からなくなって,まるで名案でも思いついたかのように近所の交番に相談に行ったのでした.それはお巡りさんの手を煩わせて,野良猫の失敗をたすけてもらおうとか思ったわけではなくて,ただわたくしはこのような状況でどうすべきなのか相談したかったのです.交番はそこから3分ぐらいの帰り道の途中にあります.
留守でした.正格にはパトロール中とのことでした.わたくしは本屋で時間をつぶしそして再び交番に行きましたがやっぱり留守でした.おかげでわたくしは,警官の代わりに,道に迷った男子中学生(東京タワーまで自転車で行って,帰り道に迷ったそうな)と,駅員に道を聞きに行ったりとか,地図と方位磁針を持てとか変な助言をする羽目になったのです.
帰ってきたお巡りのおじさんは,煤けた老人を連れてなにやら忙しそうで,この不良青年の人生相談などに構っている暇は無いようでした.あの迷惑そうな顔ったらない.まぁこれは予測の範囲というかその範囲のど真ん中,むしろマトモに取り合ってもらえたら,わたくしは世の中捨てたもんじゃないなと,何か希望に似たものを抱いて生きて行けるのだが,そうではないことは知っている.いや警察は野良猫の面倒見るためにいるわけではないし,カウンセラーでもない.そもそもお役所違いなのだ.わたくしはただ「ほっとくしか無いよ」という言葉を聞きたかっただけなのかもしれない.
だから,ネコに関わってもろくな事にならないのだとわたくしは思いを新たにしたのでした.