事故

今日の夜八時すぎ東急目黒線の下り大岡山奥沢間,走行中の車両,のわたしが乗り合わせた近くの席から,突然,
それはもう突然に,
ピンクのエプロンドレスを着た女性(可愛いが多分20代)が立ち上がり,
自分は歌手を目指していて,修行のために今から歌うと言う旨の口上を述べ(名前は失念),そんな意味不明の前フリどおりにいきなり歌って踊り始めた.
曲目はハニーフラッシュ.
このシュールな超常現象を前に,およそ全ての客は言葉を失い,目線を低くし,無関心を貫いていた.その温度の低さは,おそらくわたしが彼女の立場だったら,きっと泣き出してしまうだろうほどの冷たさでありまして,わたしは彼女の於かれた厳しい境遇を思い,胸を痛めずにはいられませんでした.そんな中わたしが彼女に好奇の視線を送り続けていたことは言うまでもありません.
とゆーか,こんなワケの分からんイベントに遭遇するなんて,かなり運が良いではないか.
彼女はその2分間のステージの間に踊りながら車内を横断し,最後を近くに座った青年にハニーフラッシュをメラゾーマの様に炸裂させた後,
「わたし,歌手になれると思いますか?」
と,その被害者に感想を求めていました.青年はなにやら返答していましたが内容は聞こえませんでした.そうしてその少女は次ぎに,当然,客の中で唯一熱い視線をおくりつづけていたわたしの所に来て,同じ質問を投げかけるのでした.
これには,努力の方向性が間違っているとしか言いようがありません.が,ふつーに「頑張って下さい」というにとどめました.
そして彼女は,「他の電車で歌たわないといけないので」と奥沢にて下車するのでありました.そのとき,わたしの正面で座っていたオッサンとオバサンが一緒に下車し,彼女にコートを掛けていました.どうやら,安価で歌っていたわけでは無いようです.しかし,こんなわけ分からん辛い事をするより,秋葉原の駅で歌ってた方が,本人的にも百倍ましでしょうに.おそらくマゾなのでしょう.そうだとしたら,わたしは彼女にもっと辛辣な言葉を掛けるべきだったのかと,ひとりささやな後悔をするのでした.